【マハバ翻訳】カルナへの呪い①【KMG 12,2】
マハーバーラタの英雄カルナにかけられた呪いについて書かれている箇所を和訳しました。今回は第12巻にてナーラダ仙から語られる話です。
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あらすじ
戦争後、悲嘆に暮れるユディシュティラから問われ、ナーラダ仙はカルナについて話します。
ドローナに武術を学ぶカルナは、ブラフマーストラの伝授を懇願しますが断られます。その後カルナはパラシュラーマの下で修行をします。しかし、とあるバラモンの牛を誤って殺害したことにより、車輪が地に沈む呪いをかけられてしまいます。
参考文献
翻訳元
『The Mahabharata』
Krishna-Dwaipayana Vyasa, translated by Kisari Mohan Ganguli, 1883-1896
Book 12: Santi Parva, Rajadharmanusasana Parva, Section II
sacred-texts.comthe Internet Sacred Text Archiveより
原典や他翻訳
- 『The Mahābhārata』 for the first time critically edited by V. S. Sukthankar. Bhandarkar Oriental Research Institute (Poona), 1933-1966 bombay.indology.infoより
- 『The Mahabharata』vol1~10 Translated by Bibek Debroy, Penguin Books India, 2013
※私訳にあたっての注釈は、短いもの(人名の言い換えなど)は「[〇〇]」と角括弧で記載し、長いものは はてなブログの注釈機能を用います。
※口調などにおいて、立場・状況に対する私自身の解釈が反映されております。丁寧/普通の切り換えぐらいではありますが。ご了承ください。
※正確さをこころがけておりますが、もし誤訳などがありましたら、お手数をおかけしますがコメントで具体的にご指摘いただけると幸いです。
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ヴァイシャンパーヤナは言った。
このように問いかけられ、スータの息子であると信じられている彼が(かつて)呪われていた様子について、優れた演説者ナーラダ仙は全てを語った。
ナーラダは言った。
お前の言う通りだ、強大な武力もつ人よ、バーラタよ!戦いでカルナとアルジュナに抵抗できる者はいない。
罪なき人よ、私があなたに語ろうとすることは、神々までも知られていないことだ。強大な力持てる人よ、かつての日に降りかかったことを聞きなさい。
いったいどのように、武器によって清められた全てのクシャトリヤを無上の幸福の地に到達させるか、ということが問題だった。このため、大戦争を引き起こすことができる子供が、処女クンティーの胎に宿った。
偉大な精力を授けられ、その子供はスータの身分を得るようになった。彼は続いて、アーンギラサ族の優れた子孫である(ドローナ)師から武術を習得した。
ビーマセーナの強大な力、アルジュナの武器を扱う機敏さ、あなた自身[ユディシュティラ]の知性、王よ、双子の謙虚さ、若き頃からのヴァースデーヴァとガーンディーヴァの使い手[アルジュナ]の友情、そしてあなた方全員への人々の愛情を思い、その青年は羨望の炎を燃やした。
若い頃に、彼はドゥルヨーダナと友人になった。巡り合わせと彼自身の性質、そしてあなた方に抱く憎悪を理由として。
ダナンジャヤが武術において万人より優れるさまを見て、カルナは、ある日ドローナに内密に近づき、このような言葉を彼に言った。
「ブラフマー武器を全てのマントラと撤回の力と共に伝授していただくことを私は切望いたします。アルジュナと戦うことを希望しているからです。あなたが全ての弟子へ抱く愛情は、あなたの息子に抱くものに間違いなく等しいはずです。どうか、あなたの思いやりによって、私は全ての武術を修得し武器に熟達した者としてみなされますように!」
このように彼に伝えられ、パールグナ[アルジュナ]への偏愛と、カルナの邪悪さへの理解も相まって、ドローナは言った。
「正しく全ての誓いを成し遂げたバラモン、もしくはクシャトリヤの中でも厳格な苦行を実行した者以外の、他の者は、ブラフマー武器を伝授されるべきではない。」
ドローナがこのように答えると、カルナは彼を礼拝したのち、別れを告げた。そしてぐずぐずせず、マヘンドラ山の上に住むラーマ[パラシュラーマ]の元へ向かった。ラーマへ近づき、彼[カルナ]は頭を下げて言った。
「私はブリグ族のバラモンです」
これは彼[パラシュラーマ]に信用をもたらした。カルナの出生と家族についてのこの認識から、ラーマは彼を親切に迎えて「ようこそ!」と言い、カルナはこれに非常に喜んだ。
天国そのものにも似たマヘンドラ山で生活する間、カルナは多くのガンダルヴァやヤークシャ、神々と知り合い、交流した。そこに住みながら彼は全ての武器を正しく習得し、神々やガンダルヴァ、ラークシャサに大いに気に入られるようになった。
ある日、彼はその隠れ家のそばの海岸を彷徨っていた。
ええ、弓と剣で武装したスーリヤの息子は、一人でさまよっていたのだ。このように身を捧げているなか、パールタよ、彼は不注意からホーマの牛を意図せず殺した。それは、日々のアグニホートラ[火供儀]の儀式を履行する、ブラフマーのとある発声者のものだった。
過失を犯してしまったことを知り、彼はそのバラモンにそのことを知らせた。カルナは、その所有者を満足させるために、繰り返し言った。
「聖なる人よ、私はあなたのこの牛を非意図的に*1殺してしまいました。
私の行いをお赦しください!」
怒りに満たされたバラモンは彼を叱責した。
「悪行をなす者め、お前は殺されるに値する。この行為の報いを受けろ、邪悪な魂のお前よ。
恥知らずめ、お前がいつも挑戦し、そのために毎日大いに努力している者と戦っているときに、地がお前の戦車の車輪を飲み込むであろう!そしてお前の戦車の車輪がそのように地に飲み込まれているとき、お前の敵が腕前を発揮してお前の首を落とすであろう。お前自身が呆然としている間にな!
私に関わるな、下劣な男よ!お前が不注意に私のこの牛を殺したことによって、なんであろうと、お前が不注意であるときに、お前の敵はお前の首を切り落とすだろうよ!」
呪われたにも拘らず、カルナは牛や財産や宝石を捧げて、その優れたバラモンを満足させようとした。
しかしながら、バラモンはもう一度彼に答えた。
「どんな言葉も、私の言葉を偽りにすることはできないだろう。*2
ここから去るか、留まるか、お前の好きなようにしろ。」
このようにそのバラモンに言われ、落ち込んだカルナは首を垂れてラーマのもとにおどおどしながら帰った。この出来事をよく考えながら。
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ここでは、カルナの誕生は戦争を引き起こすためだと語られています。
それに影響されてかは定かではありませんが、カルナはパーンダヴァ、特にアルジュナに対抗心を持つようになり、それがドゥルヨーダナとの友情にも繋がったようです。つまり、ドゥルヨーダナから影響を受けて……というわけではなさそうですね。
ドローナがカルナに対しブラフマーストラの伝授を断った動機はアルジュナへのえこひいきだけではなく、カルナの邪悪さも関係しているのですよね。山際訳では後者は省略されてしまっていますが、デブロイ訳などでもこの記述は確認できます。
カルナはパラシュラーマに対し、ブリグ族のバラモンだと偽って名乗ってしまいます。彼は後に、この嘘の報いを受けることになります。
バラモンに対して「わざとではないのに呪いをかけるなんて……」とは思ってしまいます。けれど、「毎日努力していたにも拘らず、不注意な邪魔を受けた。」と噛み砕くと、カルナへの報いも納得でき……ます……かね。神聖な儀式を邪魔したことも大きいのでしょうか。当時の価値観なども関わっているはずなので、もう少し勉強して理解したいです。
第8巻ではカルナから呪いについて語られる箇所があるので、そちらも投稿できたらいいな、と思っております。こちらではバラモンに赦してもらうために、どんな捧げ物をしたかが詳細に述べられます!また、バラモンの返答ももう少し長い言葉になっていますね。
パラシュラーマに呪いをかけられる内容の、続きも訳しました。
こちらの記事です↓